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研究?産学官連携

ヒトを含む脊椎動物の社会的認知とこころの進化:魚類やほ乳類の認知機構の解明から

研究成果の概要

ヒトは他者認識も鏡像自己認識(Mirror self-recognition: MSR)も共に顔に基づいて行っている。一部の動物では顔認識が知られるが、動物のMSRの認知過程についてはまったく不明である。ホンソメを用いた今回の魚類のMSRの研究から、本種のMSRの成立過程がヒトの場合とよく似ており、相手の顔認識に基づくことがほぼ明らかになった。つまり、ヒトもMSRできる魚個体も、鏡像個体の顔が自分の顔であることを認識していると言える。この結果は、MSRにおける機械的自己認識仮説を否定し、脊椎動物の他者認識?自己認識がヒトから魚まで脊椎動物で広く共有されることを、世界で初めて示した大きな成果と言える。この結果は、顔認識に基づく自己意識が脊椎動物で広く共通することを示唆しており、今後の関連多方面での研究展開が期待される。またMSRの実験手法に関する妥当性の検討にも成功した。その結果は、従来のMSR検証方法ではヒトや類人猿に偏って検出されてしまう傾向を示した。これらの成果は、魚類はもちろん社会性の高い鳥類?哺乳類でもMSRがこれまで検証されてこなかったのは方法論の問題のせいであって、自己認識ができるのはヒトと類人猿に限られるとの従来の考えに再考を迫る結果である。それに関連して、魚類の情動研究においても、霊長類や一部鳥類でのみ知られていた向社会性や共感が、魚類でも起こっていることがほぼ示されてきたと言える。ここでも魚類に高い社会的認知能力が伴っていることが示されており、MSRの研究成果と強く関連し、脊椎動物の自己認識や自己意識の問題を、情動も含め、根底から見直すべき時がきていることを示している。

第三者評価

評価1
魚類の顔認知という未開拓の研究分野で、短期間に華々しい一連の成果を上げたことは、きわめて高く評価できる。今後さらなる発展によって動物の視覚的認知について分子から生態までにまたがる大きな研究に発展することが期待できる。一方で、分野を超えた共著論文はなく、学内を横断する研究チームとしての一体感には乏しい。幸田教授を中心とする研究を、他のメンバーがそれぞれの専門の立場から助言し、サポートする形にとどまっていることは、大阪市立大学戦略的研究としてはやや残念である。

評価2
本研究は、魚類において顔の識別を通した、他者の認知(個体識別)、その延長としての自己認知の存在を示したことにおいて非常に重要なものであると考えられる。むろん、「脊椎動物のこころの進化」という大問題に迫るには、今後、さらなる進展を必要とするが、水槽で容易に飼育できる魚類を使って、シンプルな実験を行ない、明瞭な結果を得た手法は非常に高く評価できる。これまでヒトと霊長類に特有と考えられてきた自己認知の存在を一気に魚類まで広げたことにより、少なくとも脊椎動物一般に自己認知の鋳型が存在することを示唆していることが非常に興味深い。